STRANGE EYES


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- 第二話 -


「…どうして、皆悪魔を怖がるのかしら?別に怖いわけじゃないのに…」
 不思議そうに言う侑稀に、シエラは笑ってそれに答えた。
「それが普通の反応ではないかな?…魂を持っていかれると思っている者が多いのだから」
 侑稀はますます疑問に思った。
「日本の人はあまり悪魔というものは知らない。幽霊とか悪霊などの類を信じている人はいるけど…」
「…違いはない気がするが。結局のところ、人間達がその土地ごとの言葉で、言い表しているだけだろう。私から見れば、持っている力が多少違うのと、現れる場所が違うだけに思える。…あとは」
 シエラは少し考えて言った。
「…一応種族が違うところだな」
 侑稀はシエラの言った事を、頭の中で考えながら聞く。
「それって、かなり違いがあると思うけど?」
「…人間にも種族があるだろう?だが、『人間』という言葉でくくられている。それと同じ事だ。だからどこの人間であろうと、自分達には無い力を持つ者を怖れるのは、普通だと私は思うが?」
「そういう見方をすれば、確かにそうだよね…」
 シエラの言葉に納得しながらも、やはり疑問は残る。
「まだ、それでも人が悪魔を怖がる事が、疑問なのか?」
「だって、シエラは違うでしょう?…悪魔達の中には貴方みたいな方は、他にはいないの?」
 シエラは苦笑しながら言う。
「多分、あまりいないだろうと思うよ。変わり者…他の者達に良く言われるからな。他の者達は自分の力を高める事にしか、あまり興味の無い者が多い。…そして、最も強い魔力を持つ者に…あの者に従う」
「あの者?」
「強大な力を持つ悪魔だ…こちらの言葉で言うと、王として崇められていると言えば分かるかな?」
 シエラは微笑して言った。侑稀はその微笑がどこか面白げな感じに見えた。
「そっか…。悪魔の世界にも王様とかいるんだね。…シエラは?」
「私は誰も崇めないし、誰にも従わない。そんな事が必要な程、弱くもないつもりだ…」
「クスクス…シエラは自由が好きなのね」
「自分の意思以外で、誰かに束縛される事は、苦痛極まりない…ましてや、力で押さえつけるような奴の下でなど、いる理由が無いからな」
 つまりは、人間世界で言う、恐怖政治―独裁政治の様なものなのだろうか?と、侑稀は思った。
「それにしても…やはり侑稀は、他の人間達と比べると、考え方が面白い。もしかすると、それが侑稀の周りに彼等が集う理由かな?」
「彼等?」
 シエラは伝えておいた方が良いと判断して、侑稀に言う。
「他の悪魔達の事だ。侑稀に興味を持つ者が周りにいる。君が妖精や悪魔の姿を見る事が出来るから…という事も関係するのだろう」
 こんなにも、悪魔達が一つの場所に集まるなど、普通はありえない事だ。シエラは侑稀に忠告する。
「私がいる時は構わないが、いない時は気を付けた方が良い。あの者達は興味を覚えると、何かしら行動を起こすだろうから…」
「うん、分かったわ。シエラみたいな方ばかりじゃないなら、気をつけないとね」
 シエラは、少し考えて、自分の指から一つの銀のリングを外した。
「…これを持っていると良い…」
「?」
 侑稀は差し出された、その銀のリングを受け取りながら、疑問の表情を浮かべる。
「…何と言えば良いか…。ああ、そうだ。人間の言葉で言うと『御守り』と言うのかな?しばらくは、それで身を守れる。私も何か感じれば戻ってくるが…何か媒体を持っていてもらうと、何があったか分かりやすい…無くても良いが、私が遠くにいればすぐに行けないかもしれないからな」
「うん。しっかり持っているよ。ありがとう、シエラ」
 その侑稀の様子にシエラは微笑すると、ふと何かを思い出すように言った。
「あぁ…そうだ。少し行かなければならない所があったな。今日は多分、戻らないと思うよ」
 そう言うと、シエラは目の前から消えた。侑稀は、自分の家にいる時以外、シエラがどこにいるのか知らない。自分達とは違う彼らの世界へ戻ったのか、はたまた他の人間の所へ行ったのか。そんな事を思いながら、家に向かう。


 現在、私は一軒家に一人で住んでいる。何故かと聞かれると、あまり話したくは無い。悲しい事を思い出すから。本当は、父の弟の家にしばらく預けられる話になっていたのだけど、この家から出て行きたくなかった。唯一残された、家族で共有していた思い出は、此処にしか残っていなかったから。
 私の母はイギリス人だったから、私は日本人とイギリス人のハーフだ。それが何かと障害になる事が多かった。父もその事が理由で、親兄弟とあまり上手くいっていなかったらしい。自分を見る親戚や従姉妹の目が、私は嫌いだった。預かってくれると言ってくれた時、私は丁重に断った。代わりに、この家に一人で住む事を許してもらえるように頼んだ。父や母が残してくれた財産が、結構あったため、どうにかそれは許してもらえた。
 一人で住んでいるには少し広い家。寂しくないと言えば嘘になる。でも、友達も遊びに来てくれるようになって、気は紛れるようになった。そして…今はシエラがいる。シエラと会ってから、悪魔や妖精に興味を持つようになった。オカルト好きの友達と本や資料を探して集めるようになって、いろいろな事に視界を広げられるようになった。
 幼い頃は、他の人には見えない何かが、見える事がとても嫌だった。つい、口に出してしまえば周りから変な目で見られる事があったし、それが何なのか自分にも理解出来なくて…とても恐ろしかったから。同時に少し興味もあったが、恐怖感の方が強くて、あまり気にしないようにしてきた。
 しかし、幼い頃はそれで済んだけど、大きくなってから、やはりそれは嘘や幻には出来なかった。いつでもどんな場所にも確かにいるその『何か』が、自分が見ている事に気づいて身を隠したり、自分に笑い掛けてきたりと、周囲には確かに『何か』が存在しているのだと思った。でも、誰にも話せないと思った。自分がその『何か』が見える事を、幼い頃に話したら、周りから怖がられたりしたから。
 今は、とても仲の良い数人の友人にだけ、その事を話してみた。すると、怖がる事もなく興味を示してくれて、一緒に考えたり、悩んでくれたりするようになった。何よりのきっかけは、オカルト好きの子がいたからだ。
 自分の嫌いだった不思議な眼…今はおかげで好きになれるようになった。シエラに会えて、友達になれたのも、この眼のおかげだから。

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